一針に宿る誇り — 縫う、ではなく“結ぶ”という感覚 —
工房にミシンの音が響きはじめるのは、午前10時を少し過ぎたころ。カシャン、カシャンというリズムは、まるで楽器のように整っていて、どこか職人たちの呼吸と連動しているようにも聞こえる。
その日、入って2年の若い職人が、ミシンの前で苦戦していた。
革が針に食い込み、糸が均等に走らない。焦る気持ちが動作に現れ、余計に目が乱れていく。
見かねて、椅子を引いて隣に座った。
「いいか、縫うんじゃない。革と糸を“結ぶ”んだよ」
若い職人は一瞬ぽかんとしたが、手を止めてその言葉をかみしめた。
大関鞄工房における縫製とは、単に部品をつなげる工程ではない。
針目には「強さ」だけでなく、「思い」が宿るべきだと職人たちは信じている。
たとえば、財布の端を縫うとき。強くすれば長持ちはするが、糸が革を切ってしまう危険もある。逆に弱ければ、使用のうちにほどけてしまう。
そのちょうどよい“間”を探るのが職人の感覚であり、技術であり、経験の積み重ねだ。
目には見えない微調整を、手の感覚だけで行っている。
ある日、10年前に製作したバッグが修理のために戻ってきた。糸が少しほどけていただけだったが、縫い目は驚くほどきれいなままだった。使い手が丁寧に使い続けていたこともあるが、やはりそのバッグは「職人の縫い」が耐えた証だった。
「このバッグ、縫い直すんですか?」と若い職人が尋ねると、ベテランの職人は答えた。
「いや、この一針だけでいい。あとは、十分耐えてくれた」
まるで、自分の手仕事を信頼するように、さらりと針を通す姿はどこか美しかった。
縫製という工程の中で、職人は“結び目”をつくっている。革と糸だけでなく、作り手と使い手の時間を結ぶ、目に見えない“絆”を縫い上げているのだ。
バッグや財布に触れるたびに感じる「心地よさ」の正体は、この無数の“結び”に支えられている。手にした瞬間から、すでに使い手との関係が始まっている——それが大関鞄工房の職人たちの仕事に込められた芸術性である。
次に誰かがこのバッグを手にするとき、きっとこの“静かな誇り”に気づくだろう。
それは「作品」として主張しない、美しくも控えめな芸術のかたちだ。
国産ハンドメイドレザーバッグ | Squeeze - スクィーズ
レザーバッグブランドSqueezeでは「物の価値ではなく、そこに込められた職人や人の想いの価値を大切にしていきたい」という考えに基づき、
メイドインジャパンにこだわり「バッグを持つ人に信頼と感動を与えたい、そんな商品を世の中に出せたら」という想いで日々勉強中です。
オーダーメイドや革製品の修理もぜひお気軽にご相談ください。
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